『零の晩夏』 岩井俊二著
『 零 の 晩 夏 』 岩井俊二著
十年ぶりに泣ける小説に出会いました。
『零の晩夏』 文藝春秋BOOKS(立ち読みあり)
■ 少しネタバレあり ■
この小説には、KEYとなる二人の天才画家が登場します。
1人は、素直な幼少期を送ったのに、思春期の辛い出来事から死に取り憑かれます。そして、「死の画家」ナユタ伝説を創りだします。
もう1人は、大震災で姉と父を失います。震災地は幼い少年にはまるで遊園地のような楽しい場所でした。
しかし、死んでしまった姉の顔をどうしても思い出せない。写真もすべて震災で焼けて何も残っていない。この恐怖が、普通の子供の描く絵から、写真としか思えない異様な絵に変貌させ、大事な事を忘れないように、思い出しては記憶するという作業を反復するようになります。
忘れる事への恐怖を持つ少年と、死に取り憑かれた少年が、高校で出会う事により新たな奇跡の物語が始まり、予定された死による崩壊、死による救いへと進んでいきます。
私が一番泣けた箇所は、次の文章です。これは、忘れる事の恐怖を持つ画家と、もう一人の隠れた主人公の女性と、人形作家とが、3人で暮らした幸せの日々を語る場面です。
「
楽しかったなぁ。あの子があそこにいた、あの日々を想い出すと。何かかけがえのない、ああいう時ってあるものね。人の人生には。
」
なんということはない文章です。誰しも、大なり小なり似たような体験はあると思います。
最初に読んだときには、さほど気になりませんでした。
でも、結末まで読み切って彼ら彼女らの人生を知った後でもう1回読み返すと、この、なんということのない文章で涙がとまらなくなるのです。
余談ですが、小鍋に沸かしたお湯にインスタントコーヒーを放り込んで泡立ててから飲むようになりました。味が変わるかと言われれば微妙なんですが。なんか、ナユタ達と同じ空気を吸っていいるような気分になるので。。。。。
『零の晩夏』おすすめです。
ちなみに、写真だと思った表紙は、絵 なんだそうです。ネットでみれます。
※ 読んだ方の感想を知りたいです。
ー 了 -